• UPDATE

PCプリンターの歴史

Future beyond Digital printing 目次

  1. Future beyond Digital Printingについて
  2. ジョブズの印刷業界に与えた影響
  3. PCプリンターの歴史
  4. インターフェースについて
  5. どうなって行くのか、印刷展示会の将来は?
  6. デジタルプリンティングのルーツを探る
  7. インクジェット技術と製品の歴史(drupa2008以前)
  8. インクジェット技術と製品の歴史(drupa2008以降)-連続噴射型編
  9. ナノテクノロジーとナノグラフィック・プリンティング
  10. 特許情報から見えてきたLanda Nanographic Printing
  11. RICOH Pro VC60000に見るリコーPP製品事業戦略
  12. 新市場を創造するインクジェットプレスXerox Rialto 900 Inkjet Press

PCプリンターの歴史

昨年のJGAS2013の展示製品の中で最も注目を集めていたのはデジタル印刷機でした。JGAS2013では新たな試みとして「+Tour」といって、展示会場内の見どころをツアーコンダクターが案内して回るサービスが行われました。筆者も頼まれて「テーマフォーカスコース 最新デジタル印刷の技術と製品」というコースのコンダクターを担当しました。JGAS2013でデジタル印刷機を展示していたのは7社でしたが、その内5社の製品がインクジェット技術を使ったものでした。インクジェット技術を使った身近な製品としてPC用のインクジェットプリンターが有りますが、大きさは違っていてもその基本原理は同じです。従って、PC用プリンターの歴史を振り返りながら、インパクトからノンインパクトへと移り変わって来た必然性を考え、コンシューマプリンターの主役からデジタル印刷の主役へと成長していくインクジェット技術の基礎を理解して頂きたいと思います。

インパクト方式とノンインパクト方式

プリンターを方式別に分類すると、インパクト方式とノンインパクト方式の2種類があります。インパクト方式はその名の通り、活字或いは細いワイヤーがインクリボンを介して紙面を機械的に叩く事により文字を形成します。インパクト方式は1982年のIBM PCの発売と共に急速に普及して行きましたが、印字速度が遅い、動作音がうるさい、画質が悪い等の欠点を有していました。その後、1990年前後になると熱転写方式やインクジェット方式のプリンターが開発発売されたことで、インパクト方式はPCプリンターの主役の座を失いますが、現在でも同時複写が必要な伝票類の出力や基幹業務のトランザクションデータ出力用としては活躍しています。

複写伝票用インパクトプリンター

ノンノンインパクト方式は1985年頃から10年間ほど普及していた日本語ワープロに使われた熱転写方式を始めとして、インクジェット方式や電子写真方式がありますが、印字速度が速い、動作音が静か、画質が良い等の理由から現在も将来も主流となっていくと考えられます。もう一つ忘れていけない方式に感熱方式があります。感熱方式が使われている製品としては、家庭用ファクシミリ、スーパーやコンビニで使われているレジのレシートプリンターなどと、目新しいところでは最近キングジムが発売したクリップ専用プリンター「ココドリ」等が有ります。

インパクト方式プリンターについて

インパクト方式プリンターには活字方式とドットマトリックス方式の2方式があります。活字方式のルーツはタイプライターにありますが、グーテンベルグが活版印刷機を発明した1450年から遅れる事およそ400年後の1850年頃に、活版印刷機を参考にした個人用の印刷機とも言うべきタイプライターが多くの発明家の手によって開発されました。当初の構造は操作用キーにアームがつながっていて、その先端に活字部分が有るタイプバー方式が主流でした。

タイプバー方式タイプライター

その後、1961年にIBMが発売した電動タイプライターのSelectric typewriterはタイプアームではなくタイプボールと呼ばれるゴルフボール程度の大きさで表面に活字が並んでいる部品でインクリボンを叩きリボンとプラテンの間に有る紙に文字を転写していました。この製品は従来方式の電動タイプライターと比較して、①タイプボールを交換するとフォントスタイルを変えられる、②紙を巻きつけるプラテンを左右に動かさないので、連続紙が使える、等多くの利点を備えており、後にコンピューター端末にも利用されるようになりました。ちなみに、筆者が1975年に開発したオフィスコンピューターに組込んだプリントユニットは日本IBMからOEM供給を受け独自に開発した駆動機構を備えたゴルフボールプリンターでした。

IBM Selectric typewriter

もう一つのインパクト方式であるドットマトリックス方式は、細いワイヤー(約0.2㎜)を電磁石で駆動してインクリボンを叩き紙面に文字を形成します。機械的に紙面を叩くので複写用紙を使用すれば2~7枚程度の複写が可能な為、同時複写を必要とするような生産ラインの検査伝票のプリントや、IBMや富士通など基幹業務の連続帳票を使用したトランザクションデータ出力用として、現在でも活躍しています。

ドットプリントヘッド

ノンインパクト方式プリンターについて

ノンインパクト方式プリンターを大別すると、電子写真方式、熱転写方式とインクジェット方式の3種類となります。前記3方式が製品として市場に登場した時期は1980年代半ばとほぼ同時期でしたが、初期の熱転写方式である溶融型熱転写プリンターは1980年代半ばから1990年代初めに普及した日本語ワープロに多用されていましたが、印字速度が遅いこと、熱転写用インクリボンが高価であること等から、現在ではPCプリンターとしての製品はほとんど見受けられなくなりました。

電子写真方式の記録原理を下図を元に簡単に説明しますと、

  1. 感光ドラムを-(マイナス)に帯電させる
  2. 感光ドラムに光を当てると、その部分の-(マイナス)電荷が除去される
  3. -(マイナス)帯電したトナーを感光ドラムに近づけると光の当たった所だけにトナーが
       付着する
  4. 感光ドラムに用紙を密着させて裏側から+(プラス)の電荷をかけるとトナーは用紙に転写
      する
  5. 用紙に転写したトナーは熱と圧力をかけて用紙に定着させる
  6. 感光ドラムの除電と残トナーを除去する
電子写真方式記録原理図

また、電子写真方式には感光ドラムに照射する光源によってレーザー型とLED型がありますが、その違いを説明しますとレーザー型は1~数個のレーザー光源を使うので感光ドラム上でのドット抜けが起きづらいが、ポリゴンミラーを始めとしたレーザー走査光学系を必要とするので構造的には複雑となってしまう。LED型は最小ドットピッチ(例えば1200dpi)毎にLED素子が並んでいるので、各素子の分光光量のばらつき、感光体との間に置かれたロッドレンズアレイの配列誤差などLEDアレイユニットの信頼性が重要であるが、コンパクトな構造が可能だというメリットがあります。電子写真方式には、帯電・除電⇒露光⇒現像⇒転写⇒定着⇒クリーニングと多くのプロセスが有り、各プロセス毎に多種多様な方式がありますので簡単に説明する事は不可能ですが、現在も将来もオフィス用複合機の世界では主流技術で有る事は間違いありません。

レーザー型電子写真方式
LED型電子写真方式

熱転写方式には溶融型と昇華型がありますが、溶融型は前述したようにPCプリンターとしては見かけなくなり、主な用途として感熱方式と同様にファクシミリ用プリンターとして現在も多く使われています。また、昇華型は専用のインクリボンと記録用紙を用いる事でサーマルヘッドの熱量に比例した量だけインクが記録用紙に転写されるので非常になめらかな諧調を表現出来、写真プリントに特化した小型プリンターとして多くの製品が販売されています。

昇華型熱転写方式原理
昇華型熱転写プリンター

インクジェット方式について

インクジェット技術分野は筆者のライフワークなので、今後この連載記事の中でもたびたび触れるつもりですが、まずは基礎的なところからお話をしましょう。インクジェット方式と一言で言っても、その方式は多岐にわたっていますので簡単なチャートを以下に載せます。

インクジェット方式の方式・型式別分類

オンデマンド型は英語では“On demand”なので日本語訳は「要求に応じて」となり、必要な時だけインクを吐出する方式となります。オンデマンド型は更にピエゾ方式とサーマル方式に分かれますが、ピエゾ方式はピエゾ素子(圧電素子とも呼ぶ)に電流を流すと変形する性質を利用してインクをノズルから吐出させて画像を形成する方式です。サーマル方式は極小なヒーターを急激に加熱する事で生ずる気泡の圧力を利用してインクをノズルから吐出させて画像を形成する方式です。

連続噴射型は英語で”Continuous shoot”なので日本語と同じ意味で、偏向制御型が以下の図に示す方式ですがかなり複雑な構造をしています。動作原理を簡単に説明しますと、インクは供給ポンプにより発生する圧力により常にノズルから流れ出ていますが、ノズル直前に有る電歪素子(ピエゾ素子)の振動によりインクは粒状になって飛び出します。小液滴となったインクは帯電電極を通過する時に帯電し、偏向電極を通過する時に帯電量に応じてその飛翔方向が変化し、メディア上に画像を形成します。

連続噴射・偏向制御型インクジェット方式原理

インクジェット方式のPCプリンター市場はすでに衰退期を迎えており、これ以上の技術の進歩は考えられません。過去2,3年に発売された新製品の仕様を見ても、プリントエンジンとして高速化、高精細化、低ランニングコスト化等は見られず、周辺技術である無線LAN、Bluetoothなどへの対応にする程度の変化にとどまっています。

関連記事

  1. Future_beyond_Digital_printing…

  2. dApps(分散型アプリケーション)について

  3. 電子写真方式に求められるプロダクションプリンターとしての課題…

  4. 医療技術の今後の動向

  5. ラボ・オン・チップ(Lab-on-a-chip)について

  6. デジタルトランスフォーメーション関連用語の説明