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ナノテクノロジーとナノグラフィック・プリンティング

Future beyond Digital printing 目次

  1. Future beyond Digital Printingについて
  2. ジョブズの印刷業界に与えた影響
  3. PCプリンターの歴史
  4. インターフェースについて
  5. どうなって行くのか、印刷展示会の将来は?
  6. デジタルプリンティングのルーツを探る
  7. インクジェット技術と製品の歴史(drupa2008以前)
  8. インクジェット技術と製品の歴史(drupa2008以降)-連続噴射型編
  9. ナノテクノロジーとナノグラフィック・プリンティング
  10. 特許情報から見えてきたLanda Nanographic Printing
  11. RICOH Pro VC60000に見るリコーPP製品事業戦略
  12. 新市場を創造するインクジェットプレスXerox Rialto 900 Inkjet Press

ナノテクノロジーとナノグラフィック・プリンティング

世界最大の印刷機材展示会drupa2012から早くも2年以上が過ぎようとしていますが、drupa2012の最大の話題は何と言っても” Landa Nanographic Printing”(ランダ・ナノグラフィック・プリンティング)だったことは鮮明な記憶として残っています。元々は” Nanographic”という単語は存在せず、「10億分の1」を表す”Nano”と「印刷業界全般」を称する”Graphic Arts Industry”の”Graphic”を合わせたLandaによる造語だと思われます。” Landa Nanographic Printing”に関するニュースは、その後1年間ほどは世界中の印刷業界メディアもこぞって話題として取り上げたものでした。しかし、その後しばらくはLanda関連のニュースがほとんど聞かれなくなっていたところに、2013年11月1日に「ランダと小森が戦略的提携関係を強化」とのニュースリリースが出ましたので期待したのですが、内容に目新しさが無いものでした。

先月号のこのコラムで取り上げたKodak Stream Inkjet Technologyの開発期間も、最初の特許出願(1997年10月)から試作機発表(drupa2008)まで10年以上かかっていました。従って、プリントプロセスが完全に新規と思える”Landa Nanographic Printing”の場合は、客観的に考えても技術的難易度が非常に高いと思いますので、かなりの開発期間が必要であることは理解できます。欧米、日本での特許出願情報を見つける事が出来ないので、筆者としてもコメントのしようが無いと言うのが本音です。おそらくdrupa2014にはもう少し新しい情報が得られると思います。

ナノテクノロジーとは

筆者はナノテクノロジーの専門家ではありませんが、理解している範囲内で解説してみたいと思います。ナノメートルを分かり易く表すと、以下の図の様に地球の直径12,750キロメートルを1メートルとすると直径12.7ミリメートルのビー玉の大きさが1ナノメートルとなります。

ナノテクノロジー(Nanotechnology)という概念と言葉の提唱者は、山梨大学名誉教授の故谷口紀男先生です。谷口先生は1940年から約26年間、山梨大学工学部で教授として教鞭をとられた後、理化学研究所、東京理科大学教授などを歴任されました。ナノテクノロジーという言葉を最初に使われたのが、1974年の「生産技術国際会議」の場でした。また、ナノテクノロジー分野の大きな出来事としては、1991年に飯島澄男博士によりカーボンナノチューブが発見されたことですが、その後もあらゆる分野での発明発見が繰り返されて今日に至っています。具体的には、ナノエレクトロニクス、ナノテクが生む新素材、ナノレベルの計測・加工技術、バイオ・医療、環境・エネルギー関連、等など人類の未来に大きな夢を与える可能性を持っています。しかし、ナノテクノロジーの隠れた一面として大量破壊兵器や人工知能ロボットなど、社会へ与える危険性も否定できません。

印刷技術とナノテクノロジー

印刷技術とナノテクノロジーとは多くの分野で関連性が有ることをご存じでしょうか?すでに2000年前後から国策的に取り組んでいる分野に、プリンテッド・エレクトロニクスが有りますがプリンティング(印刷)技術を活用し、電子回路/センサー/素子などを製造することを意味しています。当初はプリンタブル・エレクトロニクス(プリント可能な)と呼ばれていましたが、ここに来て実用化の目途も立ってきたことから、プリンテッド・エレクトロニクスが一般的な呼称となっています。この技術の用途は、メンブレン・キーボード(キーボードのスイッチ方式の一つ)の電極印刷、自動車の窓ガラス熱線、RFID(Radio Frequency Identification)タグアンテナなどに、すでに活用されています。また、プリンティング技術を活用して作成される電子機器は柔軟性を持つことから、フレキシブル・エレクトロニクス(Flexible Electronics)とも言われ、大面積薄膜のエレクトロニクス製品(例えば、電子ペーパーやELディスプレイ等)を実現するものと期待されています。

今年(2014年)の1月29日~31日に東京ビッグサイトで開催されたnano tech 2014では、東館の半分に約600社がナノテクノロジー関連の展示をしていました。その中でもインクジェットプリントに関する技術や製品を重点的に見て回りましたが、Super Inkjet Printerとかサブフェムトインクジェット加工装置には驚かされました。インク液滴が1フェムトリットル(フェムトは10のマイナス15乗)という、従来方式の限界である0.5ピコリットルよりもはるかに小さい1/500の体積のインク滴を飛ばせるのです。ナノテクノロジーを知れば知るほどその奥深さを感じるとともに、未来への夢が膨らんできます。近い将来にインクジェットプリント技術でインクジェットヘッドを作るといった事も、不可能ではないかもしれません。

スパーインクジェットの液滴

ナノグラフィック・プリンティングとは何か

上述して来たようにナノテクノロジーに関する技術、応用分野や将来性については語りつくせないくらいのものが有ります。しかし、Landa社の言うナノグラフィック・プリンティングとは何者なのか、2012年5月からの素朴な疑問として感じているのですが、定期的に特許情報(主にUSPと日本国内出願ではあるが。)を調べても疑問を解消してくれるような情報を得られません。”Nanoink”(ナノインク)に特徴があるとの説明にある顔料粒子径が50~70nmゆえに、オフセットインクの顔料粒子径の約500nmに比べて極端に小さいんだと説明されても、ナノテクノロジーで使われている金属系インクではもっと小さな粒子径が沢山ありますし。

入手可能なLanda製品情報から判断しますと、2012年の発表時点と現在とで外観、構造やスペックが変わったと思われるのはLANDA S10の1機種のみですが、どの辺が変わったかを説明してみます。下図左側がdrupa2012の時のLANDA S10の外観写真、右側が最近のLanda社のホームページからダウンロードした外観写真です。大きく変わったのは次の3点で、①インラインコーターの追加、②ドライヤーの追加、③刷り出しチェック用オペレーターコンソールの位置、でしょうか。結果的に印刷機の全長が1.5~2倍になっているように思えます。

LANDA S10 at drupa2012
LANDA S10 from recent Website

S10の製品スペックも更新されていますので、変わった部分だけを以下にまとめてみます。

最高解像度

1200 x 600 dpi → 1200 x 1200 dpi

用紙厚

片面印刷時:60 – 800 μm

両面印刷時:60 – 400 μm

外形寸法

長さ:8.65 m → 14.1 m

+インラインコーター+ドライヤー:17.1 m

奥行:3.665 m → 5.8 m

高さ:1.85 m → 2.5 m

入力ファイルフォーマット

PDF, PDF/VT, PS, FPS, TIFF, JDF-JMF

コネクティビティ

JDF/JMF to common layout composition, production workflow and upstream software.

 Drupa2012の発表資料ではパッケージ用(厚紙用)と商業印刷用の2モデルが有りましたが、最新情報では1機種で両方をカバーするようになっています。またDFE (Digital Front End)すなわち入力データフォーマットやJDF/JMFベースのワークフローコントロールは、EFIのFieryを採用する事は間違いないでしょう。いずれにしろ、今年末頃には試作機のオンサイトテストに入るのではないかと期待しているのは、私だけではないと思います。

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